安全余裕率とは 安全余裕率を改善する方法も解説
2015年1月25日 更新
安全余裕率とは?
安全余裕率とは、企業の売上高が損益分岐点をどれだけ上回っているかを示す指標です。つまり、現在の売上がどの程度まで減少しても赤字にならずに済むかを測るためのものです。
安全余裕率は、損益分岐点を使って計算します。そして、安全余裕率と損益分岐点比率は、ともに財務分析の収益性の指標です。安全余裕率は、会社の経営にどれぐらいの余裕があるのかを示し、損益分岐点比率は、会社がどれだけ不況に強いのかを示しています。
損益分岐点とは
繰り返しになりますが、損益分岐点とは、企業において、売上高と費用が等しくなり、損益がゼロとなるときの売上高のことを指します。
つまり、売上高が損益分岐点を超えれば利益が出て黒字となります。逆に、売上高が損益分岐点を下回ると、赤字になってしまいます。言い換えれば、損益分岐点は、赤字と黒字の分かれ目となる重要ポイントです。売上高が損益分岐点を超えないと、企業は存続できないのです。
したがって、損益分岐点を知らないと会社の経営ができないと言っても過言ではないほど重要な指標なのです。
まず、利益は次の算式により計算されます。
利益 = 売上高 - 費用
損益分岐点は、この利益がゼロと計算される点、つまり「売上 = 費用」となって損益がトントンになる売上金額を知るために計算されます。
言い換えれば、「売上高 - 費用=ゼロ」となるような売上高が損益分岐点なのです。
売上が損益分岐点と同額になった場合、その企業は「損失も利益も出ていない状態」となります。つまり、利益を生み出せていないが費用の支払いをすることができ、会社を維持・管理できるギリギリのラインといえます。
売上高が損益分岐点を上回れば利益がプラスとなり、逆に損益分岐点を下回れば損失となります。
(注)なお、損益分岐点を計算するためには、費用を「固定費」と「変動費」に分ける必要があります。
損益分岐点について詳しくは、下記記事をご参照ください。
「損益分岐点とは 限界利益率との関係、活用方法もコンパクトに説明します」
安全余裕率の計算式
安全余裕率は、以下の計算式で求められます。
安全余裕率=(現在の売上高−損益分岐点売上高)×100/現在の売上高
または、
安全余裕率=安全余裕額/現在の売上高×100
※安全余裕額=現在の売上高−損益分岐点売上高
【具体例】
ある企業の売上とコストが以下の通りとします。
・ 現在の売上高:1,000万円
・ 損益分岐点売上高:800万円
この場合、安全余裕率は以下のように計算できます。
(1,000万円−800万円)/1,000万円×100=20%
つまり、この企業の売上が 20%減少しても赤字にはならない ということを示します。
安全余裕率と損益分岐点比率の関係
損益分岐点比率とは、損益分岐点に対する実際の売上高の割合です。損益分岐点比率が80%以下だと一般的には良好と言われており、100%を超えると赤字になります。
損益分岐点比率の計算式は次の通りです。
損益分岐点比率=(損益分岐点売上高 ÷ 実際の売上高) × 100
また、安全余裕率と損益分岐点比率の比率を合算すると、必ず100%になります。
安全余裕率 = 100 - 損益分岐点比率(%)
損益分岐点比率が80%だと安全余裕率は20%となります。
損益分岐点比率は、低ければ低いほど、不況に対する抵抗力が強いといえます。
損益分岐点比率が100%以下であれば、少なくとも赤字ではないといえますので、まずは100%以下を目指すと良いでしょう。
安全余裕率の意味するもの
(1)安全余裕率が高い場合
企業は損益分岐点を大きく超えており、利益を十分に確保できています。
多少の売上減少があっても経営に影響を与えにくく、経営の安定性が高い状態です。
(2)安全余裕率が低い場合
売上が損益分岐点に近く、少しの売上減少で赤字に転落するリスクがあります。
経営の安定性が低く、市場環境の変化に弱いといえます。
安全余裕率を改善する方法
(1)売上数量を増やす
安全余裕率を改善したい場合、まずは売上高を増加させるのが有効です。
新規顧客の獲得や、既存顧客のリピート率向上により販売量を増やすことを目指します。
(2)固定費を減らす
固定費を下げることにより安全余裕率が改善されます。
固定費を下げることで、回収が必要なコストが減少し、安全余裕率の改善に役立ちます。
固定費は売上高の増減とは関係なく一定額が発生する費用です。そのため収益の獲得に直結していない固定費を削減できれば簡単かつ大幅に安全余裕率を改善することが可能です。
固定費には家賃などがありますが、固定費を下げるために賃料の安いところに移転することなど、自社に合わせた削減方法を考えましょう。
(3)材料単価の引き下げ(変動比率を下げる)
一般的には、大量購入で仕入単価を下げるか、現金仕入れあるいは支払サイトの短縮で仕入単価を下げることができます。
また、複数の会社と取り引きを行い、発注ごとにもっとも安価な業者を選ぶ方法もあります。
(4)値上げ(限界利益率を上げる)
商品・サービスの単価向上には、商品・サービスを差別化し付加価値を高めるといった施策が有効です。ただし売上高が増加しても費用が大幅に増加してしまうと、安全余裕率の改善につながらない場合もあります。そのため、費用対効果を十分に分析したうえで新商品を開発することが重要です。
まとめ
安全余裕率は、企業の売上が損益分岐点をどの程度上回っているかを示す指標です。
安全余裕率の計算式は、
(現在の売上高 − 損益分岐点売上高)÷ 現在の売上高 × 100
です。
数値が高いほど経営の安定性が高く、逆に、低い場合は経営リスクが大きくなります。
経営戦略、価格決定、リスク管理に活用することができる有用な指標です。
この指標を活用して、企業の安定した経営を目指しましょう。
執筆者:税理士 渕上 肇